
ペルシャ絨毯の織機と職人技|水平織機と垂直織機の違いと特徴
ペルシャ絨毯を支える織機の世界——水平織機と垂直織機の魅力
世界中で愛されるペルシャ絨毯。その秘密は、すべてが手作業で織り上げられる伝統的な技術にあります。そして、絨毯を織る際に欠かせない道具が「織機」です。織機の種類や構造、使い方は、絨毯の大きさやデザイン、製作時間に大きく影響します。今回は、ペルシャ絨毯に使われる織機の種類や特徴、その背後にある職人技について詳しく解説していきます。
1. 織機の種類
ペルシャ絨毯の織りには、大きく分けて「水平織機」と「垂直織機」の2種類が使われます。どちらも絨毯を織るための大切な役割を担い、用途や作業環境に応じて選ばれます。
水平織機
- 特徴: 床に水平に設置され、主に遊牧民が使用。
- 利点:
- 簡素かつ軽量で持ち運びしやすいため、移動生活に適している。
- 絨毯のサイズは比較的小さめで、シンプルなデザインが多い。
- 使用方法:
- 地面と平行に経糸(たて糸)を張り、職人が座りながら織り進める。
- 移動先でもすぐに織機を設置できるため、遊牧民が自分たちの生活の中で使うラグや敷物を織るのに最適。
垂直織機
- 特徴: 経糸を垂直に張った大型の織機で、都市部の工房など定住型の職人が使用。
- 利点:
- 大きな絨毯や複雑なデザインを織るのに向いている。
- 経糸の張り具合を細かく調整できるため、高密度で耐久性の高い絨毯が作れる。
- 使用方法:
- 椅子に座って織り、結び目を作りながら緯糸(よこ糸)を織り進める。
- 大型のため、安定性が高く、より繊細で芸術的なデザインが可能。
2. 織機の構造
水平織機・垂直織機ともに、**「経糸を張り、緯糸を織り込む」**という基本構造は同じです。以下は、その主要なパーツと役割です。
経糸(たて糸)
- 織機にしっかりと張られ、絨毯の「骨格」を支える重要な糸。
- 経糸が緩んでいると、絨毯の密度や耐久性が低下してしまう。
緯糸(よこ糸)
- 経糸に結びつけながら幅方向に織り込む糸。
- 絨毯全体の強度を高め、デザインを形づくる。
ビーム
- 織り上がった部分を巻き取るためのロッド。
- 織りが進むにつれて絨毯を巻き取り、作業スペースを確保する。
テンション調整装置
- 経糸の張り具合を一定に保ち、ノット(結び目)の均一化を図る装置。
- この張り具合が絨毯の品質や織りのしやすさに大きく関わる。
織機の使用と技術
ペルシャ絨毯の織り方は何世紀にもわたって受け継がれてきたもので、織機の操作にも高い熟練が求められます。特に、垂直織機では職人が長時間座ったまま一つひとつの結び目を作り上げるため、集中力と根気が欠かせません。
- デザインの再現: 職人は図案(カリガール)を参考に、糸の色やノット数を正確に合わせて織り進める。
- 結び目の管理: 密度の高い絨毯ほど、1日あたりに織れるノットの数は限られるため、長期戦となる。
水平織機と垂直織機の違い
水平織機の特徴
- 持ち運びやすさ: 移動の多い遊牧民にとって最適。
- サイズ・デザイン: 小ぶりな絨毯が多く、日常使いの敷物として重宝。
- シンプルな構造: 大掛かりな調整が必要なく、軽量であることから野外でも使える。
垂直織機の特徴
- 大規模な制作: 大型の絨毯や複雑なパターンに適している。
- 経糸の張りを細かく調整: 高い密度や精緻なデザインを実現。
- 安定性の高さ: 長期間かけて織る場合でもフレームがしっかり固定されており、変形しにくい。
職人の技と織機の調整
ペルシャ絨毯の価値を左右するのは、職人の織りの技術だけではなく、織機の調整力にも大きく依存します。
- 経糸の張り具合: 経糸が適切なテンションで張られていることで、絨毯は長期間にわたって形状を保ち、美しい模様を維持。
- 図案(カリガール)の活用: カリガールを正確に読み取り、ノットの数や色を合わせる技術。
- 色のバランス: 天然染料を使用する場合、職人が数多くの色を見分け、織りの順序を管理する。
織機の進化と現代技術
近代化が進む中で、機械織りの絨毯も増えましたが、ペルシャ絨毯が世界的に高い評価を受け続けているのは、やはり手織りならではの魅力と質感にあります。
- 手織り絨毯の真価: 機械では再現できない精密さと風合いを持ち、使い込むほどに味わいが増していく。
- 世代を超える耐久性: 適切にケアすれば何十年、場合によっては百年以上使い続けられるほど頑丈。
- アートとしての価値: 一枚一枚が職人の手仕事による“作品”であり、その唯一無二の魅力がコレクターからも支持される理由。
まとめ
ペルシャ絨毯の織機は、伝統と職人技を支える重要な道具です。
- 水平織機は遊牧民の生活に合わせて小さな絨毯や敷物を織るのに適し、移動が多いコミュニティで活躍。
- 垂直織機は都市部の工房などで、大きなサイズや精緻な模様を織り込む際に使用され、絨毯の密度や耐久性を高めることが可能。
どちらの織機を使うにせよ、職人の技術と織機の調整が相まって、何世代にもわたって使われる“芸術品”としてのペルシャ絨毯が生まれます。伝統の中で受け継がれてきたこの手法は、現代の機械技術では得られない特別な美しさと価値を保ち続けているのです。
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