ペルシャ絨毯の名門ジャムシディ家 — 草木染と四つの系統
2025-01-25 ・ 永田真人

クムを訪ねたとき、ジャムシディ家のご家族にお会いする時間をいただきました。若い世代が手元の図案を見せてくれて、ベテランの織り手が糸の束をつまみながら昔話をしてくれました。出された乾燥フルーツとお茶をいただきながら、織り手の指のたこを見せてもらった日のことは、今もよく覚えています。

日本でジャムシディと言えば、クム産シルク絨毯の代名詞のような存在です。ただ、現地に通っていると分かるのは、「ジャムシディ」という姓はひとつではないということ。同じ名前を冠していても、四つの異なる系統があり、それぞれに作風の個性があります。
ここでは、本家であるモハマド・ジャムシディ氏の歩みから始めて、続いて分家三系統(マスウード、アッバス、ジャファル)の違いに触れていきます。日本ではしばしば「ジャムシディ」とひとまとめにされますが、選ぶ立場では、どの系統かを確かめることが何より大切です。
モハマド・ジャムシディ氏の歩み
ジャムシディ家系の祖は、モハマド・ジャムシディ氏。クム郊外で生まれ、12歳のころから織りに関わる仕事を始めたと聞きます。
最初に修行した場所は、クムの絨毯商人の工房でした。シルク糸の扱いの基礎を、長い年月をかけて身に付けた時期です。やがて自分の工房を立ち上げ、シルク100%にこだわって織り続けたことで、「ジャムシディ」の名は世界中の絨毯愛好家に知られるようになりました。
本人の人柄について現地で繰り返し聞くのは、職人としての謙虚さです。出来上がった作品を「これでいい」とは言わず、次の一枚で改善できる点を探し続けたと、息子マスウード氏も話していました。本家工房の作品の格は、その姿勢の積み重ねの結果だと思います。
本家の特徴 — 草木染が生む色の深み

モハマド本家の最大の特徴は、染色に天然染料、いわゆる草木染を使い続けていることです。これはジャムシディ家系の中でも本家工房の独自性で、分家の三系統では必ずしも踏襲されていません。
使う染料は、藍の葉、ザクロの皮、ウコン、アカネ、クルミの果皮など。これらを伝統的な手法で煮出し、糸を浸して色を入れていきます。化学染料のような均一な発色ではなく、糸ごとに微妙な色のばらつきが生まれるのが草木染の特徴で、それが織り上がりに奥行きのある独特の風合いを与えます。
もう一つの特徴は、織り期間の長さ。一枚を仕上げるのに二人がかりで18ヶ月、というレベルの作品が珍しくありません。両端にサインが入るのも、本家工房の格を示す印として知られています。
分家の系統 — マスウード、アッバス、ジャファル
ジャムシディの名を継ぐ工房には、本家のほかに大きく三つの系統があります。それぞれに違う作風があり、現地の職人もはっきりと区別しています。日本のお客様で「ジャムシディの絨毯を探している」とお話しされる方には、私はまず「どの系統をご覧になりたいですか」とお尋ねするようにしています。
マスウード・ジャムシディ工房
モハマド氏の息子マスウード氏の工房です。歴史的なペルシャの構図を織り込んだ作品で知られています。古代ペルシアの王宮、母なる川を擬人化した古代の図像、宮殿の柱頭に施された文様など、骨太で物語性の強い意匠が多い印象です。
色使いは本家に近い深みのある伝統色で、見比べると本家の流れを継いでいることが感じられます。ただ染色は本家の草木染とは違う方針で、合成染料を併用する作品も含まれます。
アッバス・ジャムシディ工房
モハマド氏の甥、アッバス氏の工房です。色彩の構成美に長けた工房と言われ、理知的に組み立てられた幾何学と、深い紫やライムグリーンといった独特の色使いが目を引きます。
リビングサイズの大作から、玄関マットサイズの精密画的な小品まで、幅広く作っているのもこの工房の特徴。小品でも美術館級の密度を備えていることが多く、「掌に収まる世界」と評されることがあります。
ジャファル・ジャムシディ工房
本家とは別の系統に属する工房ですが、姓を共有しているため日本では混同されることもあります。独創的な色彩感覚と、驚くほど高い密度の織りが特徴です。色の数の多さでは、ジャムシディ家系の中でも群を抜きます。
「色彩の万華鏡」と表現されるような華やかな配色を得意とし、本家の落ち着いた色調とはまた別の世界観を持っています。室内に置いたときの印象が華やかなので、現代的な空間と相性が良い系統だと感じています。
作風の見分け方

四系統の作風を見分けるコツは、染め・色・構図の三点です。
染めは、草木染(本家の柱)か合成染料か。草木染は色が自然な深みを持ち、長く使うほどにまろやかに変化します。合成染料は発色が鮮やかで均一です。
色の系統は、本家が落ち着いた伝統色、マスウードが力強い古典色、アッバスが理知的な紫・緑系、ジャファルが多彩で華やかな配色。並べてみると違いがはっきりしてきます。
構図は、本家が古典的な宮廷構図、マスウードが歴史的な人物・建物入り、アッバスが幾何学と曲線の融合、ジャファルが万華鏡的な多色構図。文様の選択に各系統の個性が出ます。
選ぶときの目安
ジャムシディ家系の絨毯を選ぶときは、まず「どの系統か」を確かめるのが第一歩です。価格帯も系統によって幅があり、玄関マットサイズで初めて触れる方なら、アッバスの小品から入るとシルクの密度を実感しやすいと思います。
草木染にこだわるなら本家、歴史的な物語性ならマスウード、現代的な色使いと構図ならアッバス、絢爛な色彩ならジャファル。お住まいの雰囲気や、合わせるご家具を思い浮かべながら選ぶと、後悔の少ない一枚になります。
ゴレスタンでは、ジャムシディ家系の各工房から直接仕入れています。商品ページにはどの系統かを明記してご紹介していますので、気になる作品があれば、系統名でお気軽にお尋ねください。
気になる一枚は見つかりましたか?
サイズ・ご予算・お部屋に合うかなど、店主が一つずつご相談に乗ります。
