
ペルシャ絨毯の製作工程|製図からパイル織りまでの緻密な手作業(前半)
ペルシャ絨毯が生む“浮遊感”の秘密――製作工程の前半戦をのぞいてみよう
部屋に足を踏み入れた瞬間、柔らかく包み込まれるような“浮遊感”に驚いた経験はありませんか? それはペルシャ絨毯特有の「パイルが下から押し上げてくるような感覚」。実は、この心地良さには、長い歴史と膨大な手間がかかった製作工程が大きく関わっています。今回は、そのペルシャ絨毯が生まれる前半部分の工程にフォーカス。伝統と職人技の結晶を、少し覗いてみませんか?
製図――頭の中のイメージを“方眼紙”に落とし込む
ペルシャ絨毯のデザインは、長い歴史と地域・部族に受け継がれる模様がベース。
- 遊牧民の絨毯: 独特の“素朴さ”が魅力で、型紙を使わずに自由奔放に織られることが多い。
- 都市部の絨毯: まずはデザインを起こし、**型紙(製図)**を作成。方眼紙の一升目が絨毯の一結びに対応するように設計することで、色彩や模様を正確に織り込んでいく。
そのため、都会の工房では「図案師」と呼ばれる専門家が細部まで計算し尽くしたデザインを考案し、それに従って職人が織るのが一般的。対して、遊牧民の絨毯は職人の頭の中にあるイメージがダイレクトに反映されるため、同じ柄でも微妙に違う“唯一無二”の味わいが生まれるのです。
染色――鮮やかな色彩の裏側にある職人の目利き
ペルシャ組毯の鮮やかな色合いは、一日にして成らず。伝統的な染色技術は、以下のような工程を経て完成します。
- 洗い: 羊毛やシルクの糸についている油脂や汚れを落とす。
- 染色: 天然染料(コチニール、インディゴ、アカネ、ウコン、サフランなど)や化学染料で糸を染め上げる。色の発色を見ながら染料に浸し、媒染剤で色を定着させる。
- 洗い(ソーピング): 余分な染料を洗い流して色を安定させる。
天然染料を使った絨毯は、時間が経つほど深みが増し、“アンティークの輝き”を纏うようになります。現代では化学染料も広く使われていますが、職人がしっかり染め上げれば、美しい発色と耐久性を持つ絨毯が完成します。
平織り――絨毯を支える“土台”を作る
いよいよ織りの工程へ。とはいえ、いきなりパイル(毛足)を結び始めるわけではありません。最初に行うのが“平織り”と呼ばれる工程。
- 縦糸(経糸)をしっかり固定: 織機に経糸を前後2列に張り、上から下へ通す仕組みを作る。
- 横糸(緯糸)を交互に交差: 数列分平織りを行い、絨毯の端をしっかりと整える。
この平織り部分は、絨毯が完成した後に**フリンジ(房)**として仕上げられます。
「なんでわざわざこんな工程が必要なの?」と思うかもしれませんが、これがあることで絨毯の形状が安定し、ほつれにくくなるのです。
手織り(パイル織り)――“浮かぶ”感覚を生む真骨頂
さて、ペルシャ絨毯の醍醐味といえば、パイル織り。表面のふっくらとした毛足部分を丹念に結び上げる作業です。
- ペルシャ結び(シングルノット): 経糸2本の片方にパイルを巻きつける繊細な結び方。指先で行うため技術を要し、特に器用な女性職人が得意とされています。
- トルコ結び(ダブルノット): 経糸2本の両方にパイルを巻き付ける方法。一般的に**かぎ針(フックバフテ)**を使い、スピード重視で結び目を増やせます。
結び終わったら、ナイフで糸をカットしつつ1つ1つのノットを完成。こうした地道な作業が繰り返されることで、絨毯全体に“パイル(毛足)”が生まれます。
この毛足が下から押し上げることで、あの“ふわり”とした感触を得られるわけです!
まとめ――手間暇が生み出す“浮遊感”の正体
ペルシャ絨毯の前半の製作工程では、製図 → 染色 → 平織り → パイル織りといった流れで、驚くほどの手間がかけられています。全工程が“職人の手作業”で行われるからこそ、
- パイルにほどよい弾力が生まれてまるで浮かんでいるような踏み心地を味わえる
- 色あせしにくい、深みを増す色彩が楽しめる
- 何世代にもわたって使い続けられるほどの丈夫さが保たれる
といった魅力が実現するのです。
いざ踏み込むと感じる、“優しく押し上げられる感覚”の裏には、職人たちの惜しみない時間と技術が詰まっている。そう思うと、ペルシャ絨毯の上を歩く度に、その豊かな歴史に包み込まれるような不思議な気分が味わえそうです。
もし次にペルシャ絨毯を目にする機会があれば、「どんな染料で染められたのかな?」「このパイルはペルシャ結び? それともトルコ結び?」なんて想像してみてください。ほんの少し意識を変えるだけで、絨毯の魅力が何倍にも広がるはずです。
そして、足を下ろした時のあの“フワッ”とした感触に、改めて思わず感謝したくなるかもしれませんよ。
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