ペルシャ絨毯ができるまで — 製図から仕上げまでの工程

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    クムの工房を順に巡ると、絨毯ができあがるまでに、いかに多くの工程が積み重なっているかが見えてきます。図案を引く部屋、糸を染める庭、織機が並ぶ作業場、洗い場、シャーリングの刃を持つ職人。一枚の絨毯が手元に届くまでに、それぞれ別の専門を持つ人たちの手を渡っていきます。

    縦織機に多色のシルク糸が掛かり、織りかけの絨毯が下に伸びている工房の様子

    ここでは、ペルシャ絨毯ができるまでの全工程を、製図から最後の仕上げまで順に追っていきます。各工程は別記事でさらに詳しく書いているので、興味のある工程は本文中のリンクから深掘りしてください。

    製図 — 設計図を描く

    すべては「どんな絨毯を織るか」を決める製図から始まります。遊牧民の絨毯は設計図なしで織り手の感性で進めることが多く、そのため一点ごとに違う素朴さがあります。一方、都市の工房では、専門の図案師(ナガーシュ)が方眼紙のような台紙にデザインを描き起こします。一マスが一つの結び目に対応し、色と模様を正確に指定する地道な作業です。

    クムやイスファハーン、タブリーズの工房では、家系で図案を伝えていくことも多く、何代も使われている古典構図を改良しながら新しい作品が生まれます。最初の製図の良し悪しが、完成する絨毯の芸術性を方向づけます。

    染色 — 糸を染める

    撚りをかけたシルク糸の束 — 染色前の準備された絹糸

    製図と並行して進むのが、糸の準備です。羊毛やシルクの糸は、まず洗って油分や汚れを取り除き、染色できる状態に整えます。次に染料に浸して色を入れていく。

    ザクロやウコンなどの天然染料皿と藍で染めたシルク糸 — 草木染による染色準備

    染料には、伝統的な天然染料(草木染)と現代の合成染料があります。天然染料は藍、ザクロの皮、ウコン、アカネ、クルミの果皮など。それぞれを煮出して、糸を浸す時間や温度、媒染剤の使い方を職人が経験で調整します。同じ素材でも染め方ひとつで色の深さが変わるので、染色職人の判断が大きい工程です。

    ジャムシディ家系の本家のように、現代でも草木染を守る工房があります。化学染料のような均一な発色ではなく、糸ごとに微妙な色のばらつきが出るのが草木染の特徴で、それが織り上がったときに奥行きを生みます。素材選びの背景は ウールとシルク — 最初の一枚にどちらを選ぶか も合わせてご覧ください。

    織り台 — 縦糸を張る

    織りに入る前に、織機の準備があります。織機の上下の梁(はり)に縦糸(経糸/たていと)を張る作業です。後でフリンジ(房)になる部分でもあります。地味な準備工程に見えますが、ここで縦糸の張りが均一でないと、絨毯全体の形が歪んでしまいます。

    織り台が整ったら、上下の端を支えるためのキリム(平織り部分)を数センチ織り込みます。これが土台になって、その上にパイル(毛足)を結んでいきます。

    手織り — 結び目を一つひとつ

    ペルシャ絨毯の中心となる工程が手織りです。縦糸に色のついたパイル糸を一本ずつ結びつけ、間に緯糸(よこいと)を通して鉄櫛で打ち込み、結び目を固定する。これを何十万回、何百万回と繰り返します。

    結び方には、片方の縦糸だけに巻き付ける「ペルシャ結び(シングルノット)」と、二本の縦糸にまたがって結ぶ「トルコ結び(ダブルノット)」があります。クムやイスファハーンのシルク絨毯はほぼペルシャ結び、タブリーズなどのウール絨毯はトルコ結びが主流です。詳しくは ペルシャ絨毯の結び方 — ペルシャ結びとトルコ結び、二つの違い をご覧ください。

    1日に進められるのは、熟練のクムの織り手でも数センチ。1平方メートル100万ノットのシルク絨毯を完成させるのに数年かかることも珍しくありません。

    機降ろし — 織機から外す

    織り終わったら、いきなり縦糸を切るわけではありません。まず、絨毯の上下の端に「キリム」と呼ばれる平織り部分を数センチ織り込み、続いて端をチェーンステッチやかがり縫いで補強します。これでパイル部分がほつれない構造になります。

    準備が整ってから、ようやく上下の縦糸を切り離します。切られた縦糸の束が、そのまま絨毯の房(フリンジ)になります。シルクの場合、糸がデリケートなので結び目が緩まないように、職人は細心の注意を払って作業します。

    機降ろしの直後の絨毯は、まだ完成品ではありません。パイルの長さは不揃い、糸くずや埃が残り、シルクの艶もまだ十分に出ていない状態です。

    シャーリング — パイルを刈り揃える

    機降ろしの後、絨毯の表面のパイルを均一に刈り揃える「シャーリング」の工程に入ります。扇形の特殊な刃物や専用の機械を使い、わずかな高さの違いを揃えていきます。

    刃の角度と力加減は、職人の長年の感覚で調整されます。わずか数ミリの違いで、模様の輪郭がぼやけたり、艶が損なわれたりするので、緊張感のある作業です。シャーリングが終わると、ぼんやりしていたデザインの輪郭がくっきり立ち上がり、絨毯の表情が一変します。

    洗い — 仕上げのクリーニング

    続いて、織り上がったばかりの絨毯を水で洗う工程です。日本では「洗い」と聞くと使い込んでからの作業を想像しますが、ペルシャ絨毯では新品にこそ必要な仕上げ工程です。織りの間に付着した余分な染料や繊維くずを落とし、繊維をほぐして柔らかさを引き出し、水分を含ませて乾かすことで織り目を引き締める。三つの効果が一度に得られる重要な工程です。

    クムの周辺で行われている伝統的な洗い方、クムの乾燥気候と水質が仕上がりに与える影響については、 クム産地での『洗い』工程 — 織り終わってからの仕上げ で動画つきで詳しく書いています。

    再シャーリング — 最終調整

    洗いと天日干しが終わった絨毯は、もう一度シャーリングにかけられます。洗いの過程で繊維が落ち着いた後の、ミリ単位の最終調整です。

    洗う前にシャーリングしたパイルが、洗いと乾燥でわずかに動いたり、わずかに飛び出した毛足が見えたりすることがあります。これを最後にきれいに揃えることで、模様の輪郭がさらに鮮明になり、艶が均一に立ち上がります。マニュアルではなく、職人の指先の感覚と長年の経験だけが頼りの作業です。

    フリンジとエッジの仕上げ

    絨毯の縁(エッジ)を青い糸でかがり縫いした仕上げ — フリンジ脇の補強

    最後に、絨毯の周囲を整える仕上げ作業です。

    フリンジ(房)の処理では、機降ろしのときに切られた縦糸の端を、ほつれないように一本ずつ結び、見た目にも整った房に仕立てます。結び方や房の長さに、産地や工房ごとの特徴が出ます。

    エッジ(縁)は、左右の縁に絨毯本体と同じ素材の糸を、縦糸に沿って何重にもかがり縫いして補強します。日々の使用で擦り切れやすい場所なので、ここをしっかり仕上げることが、長く使える絨毯の条件になります。写真の青い縁は、絨毯本体の色合いに合わせた繊細な仕上げの一例です。

    全工程を経た一枚

    動画のジャムシディ工房の作品は、織期間18ヶ月、草木染で仕上げられた一枚です。製図、染色、織り台、手織り、機降ろし、シャーリング、洗い、再シャーリング、フリンジ・エッジの仕上げ。これらの工程をすべて経て、ようやく市場に出ます。

    「気の遠くなるような時間がかかる」とよく言われますが、それは単に織りの時間だけではありません。前後の準備と仕上げを含めて、それぞれの工程に専門の職人がいて、それぞれの判断が積み重なって、一枚の絨毯になっています。

    店頭でペルシャ絨毯を手に取られたとき、目に見える模様や艶の奥に、これだけの工程と人の手があったことを少しでも感じていただけたら嬉しく思います。気になる工程があれば、ゴレスタンの店主にお尋ねください。現地で見てきた実例を交えてお話しします。