ペルシャ絨毯の結び方 — ペルシャ結びとトルコ結び、二つの違い
2025-01-28 ・ 永田真人

クムの工房に入ると、まず聞こえてくるのは「カチッ、カチッ」という小さな音です。鉄櫛で結び目を打ち込む音。続けて、糸を切るハサミの「チャ、チャ」が重なる。そのリズムを聞いていると、織り手の手元に自然と目が行きます。
ある日、ベテランの女性織り手の隣に座って手元を見せてもらったことがあります。彼女は私に向かって、「この結び方を見ていてください」と言って、ゆっくり指を動かしてくれました。糸を縦糸にひっかけ、下から引き出し、隣の縦糸の裏から再び抜く。一つの結び目に、手が三回動く。
ペルシャ絨毯は、糸を一本一本、手で結びつけて作る織物です。しかし、その「結び方」には主に二つの方法があります。同じ手織りでも、結び方が違うだけで、絨毯の表情も触り心地も、使い込んだときの変化も変わってくるのです。
ペルシャ結び — 流れの美しさを生むシングルノット
ペルシャ結びは、片方の縦糸だけに糸を巻き付ける方法です。「セナ結び」「シングルノット」とも呼ばれ、クムをはじめ、イスファハーン、ナインなど、シルクや細密な絨毯を得意とする産地で広く使われています。
この結び方の特長は、結び目の密度を高くできること。糸が片方の縦糸にしか巻かれないので、隣の結び目との距離をぎりぎりまで詰められます。1平方メートルあたり100万、120万ノットといった高密度のクム絨毯は、ほぼ全てペルシャ結びです。
もう一つの特長は、曲線の表現の自由度です。結び目が小さく、配置の融通が利くので、流れるような花の蔓、生き物の輪郭、繊細な書の文字も、なめらかに織り上げられます。クムの絨毯が「絵画のよう」と言われるのは、この結び方の恩恵が大きいと思います。クム産シルク作品集 でご覧いただける作品は、ほぼ全てペルシャ結びの作例です。
トルコ結び — 丈夫さを生むダブルノット
トルコ結びは、隣り合う2本の縦糸に糸をしっかり結びつける方法です。「ギオルデス結び」「ダブルノット」とも呼ばれます。タブリーズ、ハマダーン、ヘリーズなどウール絨毯の産地、そしてトルコやコーカサスの絨毯で多く使われます。
この結び方の最大の利点は、丈夫さ。結び目が二本の縦糸を抱え込む形になるため、踏まれても引っ張られても外れにくい。実用ラグや、廊下や玄関など人がよく通る場所に敷く絨毯には、トルコ結びの方が向いています。
反面、結び目がやや大きくなるので、極端な高密度や繊細な曲線表現には不向き。それでも、模様の力強さ、色の塊として見たときの存在感は、ペルシャ結びにはない魅力があります。
裏面を見ると結び方が分かる
絨毯を裏返すと、結び目の形がそのまま見えます。ペルシャ結びは結び目の片側だけが盛り上がり、もう片側は縦糸が透けて見える。トルコ結びは縦糸の両側に対称に結び目が並びます。
慣れてくると、裏を見るだけで「これはクムだな」「これはタブリーズかもしれない」と当たりがつくようになります。私がクムの市場で職人と話すときも、まず裏返してこの形を確かめるのが習慣です。
一日に織れる距離
結び方の話に戻すと、もう一つ大事なのが「速さ」です。熟練のクムの織り手でも、シルクの高密度絨毯では、一日に織り進められるのはわずか数センチ。1平方メートルあたり100万ノットの絨毯なら、一日5,000結び目ほどが限界と言われます。
仮に2メートル×3メートルのリビングサイズを想定すると、合計600万ノット。単純計算では、一人の織り手で完成まで3年以上かかります。途中で織り手が変わることもあれば、結婚や家庭の事情で完成しないまま手放される絨毯もあります。
クム絨毯が高価と言われる理由は、この時間そのものです。素材費や仕入れ経路だけではなく、人ひとりの数年分の集中力が、一枚に注ぎ込まれているからです。動画の ジャムシディ工房 の作品は、織期間18ヶ月の草木染。一日の進みと、できあがった一枚の物量を見比べると、時間の重さが少し具体的に感じられるかもしれません。
どちらが優れている、ではない
ペルシャ結びとトルコ結び、どちらが上ということはありません。それぞれ得意な表現と適した用途があるだけです。
細密な花柄や宮廷文様の華やかさを楽しみたいならペルシャ結び。素朴で力強い民族的な意匠、または日常使いの実用性を求めるならトルコ結び。お住まいの動線や、普段触れる頻度を思い浮かべながら選ぶと、後悔の少ない選択になると思います。
ゴレスタンでは、現物をご覧になる際、よろしければ裏面もお見せします。表のデザインだけでは伝わらない、織り手の手仕事の正直さが、そこには現れています。
結び方ごとの作品をご覧になる
ゴレスタンが取り扱うクム産シルクは、紹介したペルシャ結びの作例です。工房ごとに作風と結び目の表情が違いますので、関心のある工房から見ていただくのがお勧めです。
- ジャムシディ家系作品集 — 本家モハマド系の草木染、分家3系統の宮廷意匠。動画でご覧いただいた最高密度の織りも
- ミルメヒディ工房作品集 — サファヴィー朝意匠の淡パステル基調、両端のサインが特徴
- アルバル工房作品集 — ドーム文様の精密派、玄関マットからの入門にも
- クム産シルク一覧 — 工房を問わず素材で選びたい場合に
結び方や織りに関するご質問、現物の裏面を見たいといったご相談は お問い合わせ よりお気軽にどうぞ。工房ごとの作風の違いを店主の視点でひととおりご紹介した 取扱工房一覧 もご参考に。
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